この街

小学生ぶりに自分の住んでいる街を散策した。

 

文字通りあてもなくブラブラと歩いていく。

この街を東西に貫く大通りの突き当たりを、右に曲がる。また突き当たる。

昔ながらの、漫画のようなパーマの機械がある美容室の角を右に曲がる。

この美容室は一軒家と一続きになっていて、クラスメイトのMちゃんはそこに住んでいた。

何かのゲームで遊んだおぼろげな記憶と、美容室の鏡、女性誌の表紙。そんな断片的な情景しか思い出せない、あんなに仲がよかったのに。

 

しばらく道なりに歩く。大通りとは打って変わって、人通りは疎らだ。通りすぎる車から物珍しそうな視線を感じる。

この辺りに、たしかAちゃんの家があった。お寺の目の前、玄関とリビングが分かれているけど実は内側でくっついている二世帯住宅。

中学生か高校生のお姉さんがいたことと、オレンジ色のゲーム機の記憶。それから飼われていたペットのうさぎ。


もうしばらく歩く。大通りへと至る細道から、昔模擬テストを受けた塾の校舎が見える。


AちゃんとMちゃんと3人で遊んだことも確かにあったのだ。だけど、なぜか記憶は曖昧だ。一つ確かなのは、この新書がほとんど置かれない本屋に行ったこと。

ガラス越しに覗いてみると、たくさんの漫画がひしめき合っている。それは小五のあの頃となんら変わらないようにさえ思えて、私はなんだかめまいを起こしそうになる。

 

あの頃と同じ家、あの頃と同じ街。

 

でもこの街を歩く私は、もう大学生だ。
そして、MちゃんとAちゃんがどんな暮らしをしているのかも、私と同じように故郷を離れているのかそうでないのかも知らない。どんな女性になったのかも。

 

もうこの街に、私の知っているあの人はいないかもしれない。私のことを覚えている人だっていないかもしれない。それはひどく残酷で、打ちのめされる事実だった。

 

小三でこの街に引っ越してきて、地元の中学校に通わなかった私は、地元の成人式に出る選択をしなかった。

それはもしかすると、遠い忘却の彼方に行ってしまった、この街とのよすがを永遠に手放したということなのかもしれない。